計画研究: A02
加速器ニュートリノビームによるニュートリノフロンティアの展開
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原子炉から発生する反ニュートリノ原子力発電所の原子炉の中では、核分裂反応によって電子ニュートリノの反粒子である反電子ニュートリノが発生しています。これを検出してニュートリノ振動を調べるというアイデアを実現したパイオニアが日本のカムランド実験でした。岐阜県の神岡鉱山に検出器を置くと、日本の主な原子力発電所の多くがそこから約180kmにあり、その距離で測れるニュートリノ振動をとらえることができました。
ニュートリノには3種類があり、たがいに混ざり合ってその種類が変わるニュートリノ振動を起こします。この混合の割合「混合角θ」は3つ存在します。第1の混合角θ23は約45°、第2の混合角θ12は約34°と測定されています。カムランド実験は、第2の振動モードを太陽ニュートリノ以外で明らかにしました(2002年)。第3の混合角θ13の値は非常に小さく、観測が難しいとされてきました(図1)。
θ13の精密測定に迫るダブルショー実験
A02班は、θ13の測定を目的とした国際共同実験「ダブルショー実験」に参加しています。この実験では、原子炉から1kmほどのところに中型の液体シンチレーター測定器を設置し、振動によるニュートリノの減少量を精密測定します。また、誤差を少なくするため、距離を置いて2つの測定器(前置測定器、後置測定器)を置きます。実験施設はフランスのショー村にあり、測定器を二重にしていることから、ダブルショー実験と名付けられたものです(図2)。
原子炉ニュートリノによる実験では、ダブルショー実験が後置検出器のみのデータを用い、2011年にいち早くθ13が有限の値を持つ兆候を報告しました。その後、中国と韓国での実験が2012年にさらに精密な測定値を報告しています。測定されたθ13の角度は予想よりも大きく、約9°でした。ダブルショー実験の前置測定器は2014年の夏には完成し、高精度な測定が始まります。A01班のT2K実験などの加速器実験の振動測定結果と組み合わせて、次世代実験の前にどれだけCP対称性の値に迫れるかが注目されています。
θ13の値が予想されていたよりも大きかったことは、次世代のニュートリノ実験に関して非常に良いニュースでした。CP対称性を確実に測定するためには、どのような強度の加速器とどのような大きさの測定器が必要か、原子炉実験で測定されたθ13の値を用いて具体的に計算ができるようになったのです。
原子炉モニターPANDAとKASKAプロトタイプの開発
A02班では応用科学の研究も行っています。原子炉ではウランからプルトニウムが生成されます。プルニウムは核爆弾の原料になるおそれがあることから、世界の原子力発電所で作られるプルトニウムをIAEA(国際原子力機関)が監視しています。IAEAの査察が容易に行えるよう、革新的な技術が求められており、ニュートリノの利用が考えられました。
ニュートリノは地球の内部をも突き抜けてしまうので、遮蔽すること、つまり隠すことがまったくできません。そのため、逆に原子炉の外からモニターすることができます。ニュートリノを検出する原理はニュートリノ振動の検出器と同じですが、装置はもっとコンパクトです。トラックに載せて建物から数十mのところでニュートリノ反応を測定し、ウランがどのくらい燃えたかといった燃料構成や、原子炉の運転状況を調べます。
原子炉モニターの開発は、東京大学と東北大学で行われていて、それぞれの装置はPANDA、KASKAプロトタイプと名づけられています。原子炉モニターは自由に移動できる半面、測定環境は過酷で、バックグラウンドをいかに落としていくかが課題になっています。この技術が完成すれば、ニュートリノの研究が世界平和にも役立つことになります。