研究概要


本領域の目的
 本領域の主目的は、(1)素粒子“ニュートリノ”の未知の性質の究明、(2)ニュートリノを通した新しい自然像の確立、(3)そしてニュートリノを軸として素粒子・宇宙・時空の起源に迫ること、です。(1) ニュートリノについて、「質量」、ニュートリノ同士が混じり合う「ニュートリノ混合」、そして「粒子と反粒子の違い」、がよく分かっていません。日本が誇る先端科学技術を使った実験研究、ニュートリノによる自然観測、そして理論研究を通して、ニュートリノの性質の究明を目指します。(2) ニュートリノは、宇宙の中では光に次いで多い素粒子で、自然界の至る所に存在します。太陽はニュートリノで輝いていますし、小柴氏のノーベル賞につながった超新星ニュートリノも有名です。これら自然界に存在するニュートリノを観測し、新しい自然像を描いていきます。(3) 素粒子・宇宙・時空の起源という大きなテーマに向かって、ニュートリノを軸とした新しい研究を展開していきます。


本領域の内容
pict 本領域では、最先端の実験・計測技術を駆使してニュートリノの性質を測る実験、自然界に存在するニュートリノの観測、最先端の素粒子実験技術の開発、そしてニュートリノを軸とした理論研究、を進めて行きます。実験研究では、(a)世界最高性能の加速器 J-PARC を使ってニュートリノビームを生成し、岐阜県飛騨市にあるスーパーカミオカンデで、ニュートリノ振動を測定します。図1 に示すスーパーカミオカンデは日本が誇る高性能ニュートリノ測定器です。(b)原子炉で発生するニュートリノを測定し、やはりニュートリノ振動を研究します。さらに、その技術を応用して外部から原子炉をモニターする技術を確立します。(c)大気から降り注ぐニュートリノを観測します。また、次世代の核子崩壊・ニュートリノ検出器「ハイパーカミオカンデ」の開発研究を進めます。(d)宇宙起源の高エネルギーニュートリノを観測することで、これまで見えなかった宇宙の深部を探ります。以上のニュートリノ実験と観測を支える最先端技術として、「3 次元イメージング」、「超高解像度」、「超高エネルギー分解能」の測定器の開発を進めていきます。また、ニュートリノを軸にした理論研究では、「ニュートリノが関係する現象を説明する」理論、「ニュートリノで観る原子核構㐀」理論、「ニュートリノを軸とした」宇宙論および「素粒子の究極」理論を研究していきます。


期待される成果と意義
 加速器ニュートリノビームと原子炉ニュートリノを使った実験では、世界最高精度でニュートリノ振動のパラメータを決定します。その結果、世界で初めてニュートリノにおける「粒子と反粒子の違い」を調べることが可能となります。宇宙ニュートリノ測定では、これまで観測されなかった超高エネルギーのニュートリノの観測を成功させ、新しい宇宙像を描きます。大気からのニュートリノを精密に観測することで、ニュートリノと地球内部の物質との反応が分かります。最先端の素粒子実験装置の開発では、原子炉の保障措置技術の進展、放射線イメージング技術向上、応用分野への波及効果が期待できます。理論研究では、素粒子・原子核・宇宙にまたがった分野横断的な研究がニュートリノを軸に展開していきます。
 以上の基礎研究の進展により、「我々はどうやって生まれてきたのか?」という宇宙創生の謎、「時空とは何か?」という根源的な謎に迫ります。


キーワード
 ニュートリノ: 素粒子の一種で、電荷を持たない電子の仲間である。3つのタイプが存在する。物質との反応が極端に弱く、幽霊粒子と呼ばれたりもする。質量を持つことが、スーパーカミオカンデで発見された。3つのタイプ間で存在が入れ替わる現象「ニュートリノ振動」が発見されており、その性質の解明が進んでいる。