計画研究: A01
加速器ニュートリノビームによるニュートリノフロンティアの展開



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T2K(Tokai to Kamioka)実験
 ニュートリノは飛んでいくうちに世代が変わる「ニュートリノ振動」を繰り返します。ニュートリノ振動には3種類のモードがあり、第1のモードミューニュートリノからタウニュートリノに変化)は1998年に、第2のモード(電子ニュートリノからミューニュートリノ+タウニュートリノに変化)は2001年に発見されています。
 残る第3のモード(ミューニュートリノから電子ニュートリノに変化)の発見をめざして2009年から実験を始めたのが「T2K実験」です。A01班は、このT2K実験を国際共同で進めています。T2K実験では、茨城県東海村にある大強度加速器J-PARCでつくった陽子を取りだし、ターゲットに衝突させてミューニュートリノを生成。岐阜県の神岡鉱山に設置された検出器スーパーカミオカンデに向けて発射します。ニュートリノビームは約1ミリ秒後、295km離れたスーパーカミオカンデに到達し、検出器の水と反応したミューニュートリノが検出されます(図1)。J-PARCで生成されるニュートリノは1秒間に100兆個以上にもなりますが、スーパーカミオカンデで検出されるニュートリノ反応は1日にわずか2~3個ほどです。

2013年夏、
第3のニュートリノ振動モードの存在が確実に

 T2K実験では、2011年にミューニュートリノが電子ニュートリノになったのではないかとみられる反応を6事象発見しました。これは99.7%確実といえる値です。その後、事象数を増やしていき、2013年4月には28事象に達しました。これはニュートリノ振動が偶然におこる確率が1兆分の1以下であることを意味しています。この結果が7月に発表され、第3の振動モードの存在が確実になりました。

反ニュートリノ反応の検出をめざして
 ニュートリノの反粒子である反ニュートリノにも、第3の振動モードが存在するのだろうか?これを調べるのがT2K実験の次の目標です。今の宇宙には反物質(反粒子)が存在しません。それは粒子と反粒子に性質の違いCP対称性の破れ)があるためだと考えられています。CP対称性の破れは)クォークについては明らかにされていますが、レプトンでも検証する必要があります。そのためには、ニュートリノの振動と反ニュートリノの振動に違いがあるのかどうか、T2K実験で明らかにしようとしているのです(図2)。2014年夏には、反ニュートリノの生成を確認する実験がスタートし、2015年以降には本実験に入ります。
 反ニュートリノの反応率はニュートリノよりもさらに低く、事象数は4分の1になると予想されています。そこで、反ニュートリノ反応のデータを蓄積していくには、技術的な課題があります。J-PARCでつくるニュートリノビームの強度をさらに上げることと、測定精度、つまり解像度を上げることです。

ニュートリノの質量と性質を探る
 ニュートリノ振動はュートリノに質量がある証拠となる現象です。ニュートリノの質量は他の素粒子と比べると桁違いに小さなもので、質量はまだ測定できていません。ニュートリノ振動でわかるのは質量の組み合わせ、世代間の質量の差だけなのです。質量を測る方法として有望視されているのは、宇宙の23%を占めるダークマターの量から、その中に約1%は含まれていると予想されるニュートリノの影響度をみる方法です。
 また、ニュートリノ振動がクォークの世代が移る「フレーバー混合」と大きく異なるのは、世代間の混合が大きいことです。この混合の割合「混合角」を正確に求めて、ニュートリノの性質を解き明かそうとしています。