研究概要
本領域の目的
今、素粒子物理学と宇宙物理学は大きな転換期にあります。素粒子物理学の「標準理論」は加速器の発展によりTeVのエネルギースケールまでの広い範囲で検証され、理論の予想値と実験の測定値が驚くほど良く一致しています。「標準宇宙論」は、宇宙の進化における元素合成を説明する一方で、暗黒物質・暗黒エネルギーの存在を揺るぎないものとしました。しかし、宇宙に存在する物質・反物質非対称性の起源、暗黒物質・暗黒エネルギーの正体、インフレーションの起源、力・物質場の統一像などは「標準理論」、「標準宇宙論」では説明できません。宇宙の初期から現在に至る描像を統一的に理解するには、物理学の革新となる「新しい素粒子、宇宙像」が必要と考えられています。本領域では、これら未解決の課題を解決するために重要な鍵となる素粒子「ニュートリノ」を研究することで、「新しい素粒子・宇宙像」の創造に挑戦します。
本領域の内容
本領域では、世界最先端のニュートリノ実験:スーパーカミオカンデ実験、T2K実験、IceCube実験を進め、ニュートリノ振動を研究し、粒子と反粒子の対称性の破れを探り、ニュートリノ天文学を進めていきます。さらに、素粒子の統一理論と宇宙初期を調べるために、スーパーカミオカンデ実験で陽子崩壊を探索し、宇宙背景放射の観測(Simons Array /GroundBIRD実験)からニュートリノ質量を測定し、インフレーション(原始重力波)の検証に挑みます。ほかにも、ニュートリノのマヨラナ性の検証等、より根源的な問題にも挑戦していきます。さらに次世代ニュートリノ実験を実現するために、ハイパーカミオカンデ実験やIceCube Gen2実験の基幹実験技術の開発を進めていきます。
ニュートリノを基軸に素粒子、原子核、宇宙線、宇宙にわたる分野を融合した研究内容です。
期待される成果と意義
[ニュートリノ物理学の発展]:ニュートリノ振動を高精度で決定します。ニュートリノ絶対質量や世代数の情報を加え、ニュートリノ質量と混合の起源の理解が進みます。
[ニュートリノ天文学の進化]:宇宙背景ニュートリノ、太陽、超新星、銀河系外天体、AGN等からのニュートリノを観測します。
[大統一理論構築]:大統一の証拠となる陽子崩壊を世界最高感度で探索します。クォークとレプトンの対称性を調べることで、大統一模型を制限します。
[宇宙進化史の解明]:原始重力波、物質・反物質非対称性の起源(CP対称性の破れ)、暗黒物質の崩壊と消滅の信号、宇宙背景放射Bモード、を発見し、宇宙進化を解明できる可能性があります。
【キーワード】
ニュートリノ: 素粒子の一種で、電荷を持たない電子の仲間である。三つのタイプが存在する。物質との反応が極端に弱く、幽霊粒子と呼ばれたりもする。質量を持つことが、スーパーカミオカンデで発見された。三つのタイプ間で存在が入れ替わる現象「ニュートリノ振動」が発見されており、その性質の解明が進んでいる。