大気ニュートリノ観測による質量階層構造の研究
ニュートリノには質量があった!?ニュートリノ振動の発見!?
これまでにいくつかのニュートリノ実験結果より、ニュートリノ振動があることが明らかになった。ニュートリノ振動というのは、ニュートリノのフレーバー(電子ニュートリノ、ミューオンニュートリノ、タウニュートリノという種類のこと)が、自然と変化したり、また戻ったりとフレーバーが時間とともに振動する、というものである。この振動が起こる理由はニュートリノの質量固有状態とフレーバー固有状態が違っているからである。従って、ニュートリノ振動の発見は、ニュートリノが質量をもつことを発見したことを意味する
質量固有状態の順番がわからない?質量階層性問題とは?
フレーバー固有状態(νe,νμ,ντ)と同じように、質量固有状態も三種類ある(ν1,ν2,ν3)。ν1とν2の質量の2乗の差が符号も含めてわかっているが、ニュートリノ振動実験では、v2とv3の質量の二乗差の絶対値しか測定できないので、どちらが重いのかという順番がわからない。これを「ニュートリノの質量階層性問題」と呼ぶ。もし、ν3がν2とν1より重い場合は「順階層」といい、軽い場合は「逆階層」と言う。
質量階層性問題は重要!
質量は物質の一つの基本的な性質として、いろんな課題と深い繋がりを持っている。今の素粒子物理学の標準モデルはニュートリノが質量を持つことを説明できないので、新しい物理が存在していると考えられる。この「新しい物理」に対しては、さまざまなモデルがある。その中で、ニュートリノの質量階層は正常階層を予言するモデルも、逆階層を予言するモデルもある。これらの理論を検証するため、ニュートリノの質量階層性を決定することは非常に重要である。
大気ニュートリノとは
ニュートリノ質量階層性を決定するためには、大気ニュートリノ測定を利用することができる。大気ニュートリノというのは、文字通り大気中から降り注ぐニュートリノのことである。
宇宙からはたくさんの粒子が地球にとんできており、それらを宇宙線という。宇宙線のほとんどは陽子であるが、それらが大気中の酸素や窒素の原子核と反応し、様々な二次宇宙線を作る。大気ニュートリノとは、二次宇宙線としてできたパイオンやミューオンが崩壊する時に作られるニュートリノのことを指す。
どうして大気ニュートリノ測定で質量階層性がわかるのか
我々のスーパーカミオカンデとハイパーカミオカンデは、この大気ニュートリノを大量に検出できる。ニュートリノは物質との相互作用する力が弱く、地球を貫通して届くこともあるので、検出器には四方八方から大気ニュートリノが届くことになる。その中で、地球の反対側の大気で生成されたニュートリノは検出器に来るまでに、地球内部の物質中に存在する電子の影響により、ミューオンニュートリノから電子ニュートリノへの振動確率が変化する。これは「Matter effect」と呼ばれている。
Matter effectの影響はニュートリノの飛行距離、通過してきた電子の数、ニュートリノのエネルギーによって変化し、あるエネルギーを持ったニュートリノではちょうど、地球を貫通してスーパーカミオカンデに届く時に、この振動確率が最大になり、多くの電子ニュートリノが観測されることになる(共鳴現象)。
そして、このMatter Effectは質量階層性にもよっており、順階層の場合は電子ニュートリノの出現が多くなって、逆階層の場合は反電子ニュートリノの出現が多くなる。従って、電子ニュートリノと反電子ニュートリノの割合を測定できれば、質量階層性が解明できる。
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