素・核・宇宙実験学Tレポート(解答)
1.
4月11,18日 合計配点7(注:厳密ではなく、成績の参考資料程度に使う。)
(ア) 陽子の重さは何kgか? (配点1)
1.67262158´10-27kg.
通常の単位kgで表すと大変小さいので、素粒子でよく使われる単位938MeV/c2で表示する。
(イ) 標的から10cmのところに表面積25cm2のNaIシンチレーター検出器を設置した。標的を臨む立体角はいくらか?また標的から粒子が等方的に散乱されているとすると、全体の何%の粒子が検出器で観測されるか?(配点1)
標的を囲む全立体角は4pr2=1257cm2となる。よってNaIシンチレータ検出器の臨む立体角は25÷1257=0.0199。標的から粒子が等方的に散乱されている場合は1.99%の確率で検出器で観測される。
5×5cm2程度のNaIはよくある大きさの検出器である。線源から5cm離して置けば、観測できる事象数はわずか2%になることに注目。
(ウ) 陽子・陽子衝突の全断面積は高エネルギーでは~40mbである。このエネルギーでの陽子の半径はいくらか?(配点1)
s»p(r+r)2=4 p r2の関係より、
40mb=40´10-3´10-24cm2=4 p r2
r=5.6´10-14 cm。陽子の大きさは大体10-13 cm程度である。
(エ) ニュートリノ・陽子衝突の全断面積は1GeVエネルギー領域で~10-36cm2である。上の陽子の大きさを使うとニュートリノの大きさはどの程度になるか?ただし、ニュートリノは素粒子で大きさをもたず、この小さな衝突断面積はニュートリノ・陽子間の相互作用が小さいことに起因している。(配点1)
* **これは問題設定が悪かったので、最初に謝ります。***
(ウ)と同様に解くと
10-36cm2=p( rproton +rneutrino)2 でrproton =5.6´10-14 cmを入れると
rneutrino =-5.6´10-14 cmとなり負の大きさとなる。これは物理的解釈と反する。ニュートリノを大きさの無い点粒子としても、陽子とニュートリノが出会うと必ず反応するなら、やはり断面積は10mbとなり~10-36cm2の断面積を説明できない。これを説明するためにはニュートリノは弱い相互作用しかしないので、通常陽子と衝突せずに陽子をすり抜けると考えればつじつまがあう(注:(ウ)の設定では陽子・陽子は強い相互作用をするので必ず衝突するとした)。この時、ニュートリノと陽子の反応率は10-36/10-26=10-10で100億個に1個が陽子と反応することになる。
(オ) 1GeVのニュートリノと陽子衝突の全断面積10-36cm2もとに水中でのニュートリノの相互作用長を求めよ。(配点1)
l=1/(10-36cm2´1g/cm3´6.023´1023/g
=1.66´1012cm=16,603,022km
余談であるが、地球の直径は約13,000kmなので、地球の密度を考慮してもニュートリノが地球をすり抜けていくことが判る。
この問題で水の原子量18(g/mol)を使う解答例が目に付きました。この場合、水分子の個数はNa個/molですが、入射粒子は核子と散乱するので、標的の核子数は18 Na個/molとなります。よって分母、分子の18が打ち消しあい、上の答えのようになります。
(カ) ラザフォード散乱において、入射粒子の電荷をz1e、エネルギーをE、標的粒子の電荷をZ2eして散乱角度qに散乱される断面積は
である。ラザフォード散乱の断面積を古典論をもとに計算せよ。(配点1)
電子の古典半径r0(ºe2/4pe0mec2)を定義して
と表せる。z1=Z2=1、r0=2.8181´10-13cm、電子の質量をmec2=0.511MeV、の場合1MeVの陽子に対しての微分散乱断面積の大きさは、q=10°、90°、180°で幾らになるか?(配点1)
式の導出は一般の電磁気学の教科書を参照して下さい。たいていの本に出ています。
q=10°: ds/dW= 2.2´10-23cm2=22 b
q=90°: ds/dW= 5.2´10-27cm2=5.2 mb
q=180°: ds/dW= 1.3´10-27cm2=1.3 mb
q=10°とq=90°で立体角が1万倍近く違うことに注目。大角度散乱はめったに起らない。
全体に対するコメント:
結構計算ミスをする人が多い。計算は正確に。
素・核・宇宙実験学Tレポート(解答)
2.
4月25,5月2日 合計配点6(注:厳密ではなく、成績の参考資料程度に使う。)
(ア) Bethe-Blochの式 (配点1×2)
で水中での荷電粒子の単位長さあたりの極小イオン化値でのエネルギー損失を計算する。水のH2Oのうち、主にOがエネルギー損失に優勢だとし、Iを求め上記の式に代入し極小イオン化値(bg=3)でのエネルギー損失を求めよ。また配布資料にある酸素のイオン化エネルギーを使った場合はエネルギー損失はどうなるか?参考として電子の質量mc2は511keVである。
I =16´Z0.9eVの関係式より、I =16´80.9=16´6.5=104eV。
bg=b/√(1-b2)=3の場合b=0.95、g=3.16。
上式に代入すると
参考資料中の酸素のイオン化エネルギーはI =16´80.9=16´6.5=98.3eV。
この場合
(イ) 上記でもとめた極小イオン化値を用い、平均運動量1GeV/cの宇宙線ミューオンの全エネルギー(γ因子が十分大きいので運度量=エネルギーとしてよい)を測定するためには最低何cmのプラスチック(水と同じで密度1.0とする。)シンチレータが必要か?ここでシンチレータとは荷電粒子が入射すると光を放出する物質のことで、この問いに関しては物質を単純にプラスチックとして考えて問題ない。(配点1)
1GeV÷1.75MeV/cm
=1,000MeV÷1.75eV/cm
=571cm (=5.7m)
よって最低571cmのプラスチックの塊が必要。
(ウ) 配布した参考資料を読み以下の問いに答えよ。もし簡潔にまとめるのが難しければ参考文献をそのまま日本語に訳してもよい。
@ 荷電粒子のエネルギー損失を量子論使って計算する際に、古典論と比較して量子論のどのような特徴を取り入れているか?(配点1)
(1)入射粒子から原子中の電子へのエネルギー遷移が離散的であること。
(2)粒子の波動性
A 物質の密度補正因子とは、どのような現象を取り扱っているかを説明せよ。(配点1)
我々の議論では入射粒子が孤立した(独立した多数の)原子と相互作用するとしてきた。しかし、物質の密度が上がるとこの仮定は正しくなく、入射粒子は許されたインパクトパラメータの範囲内で多数の原子と相互作用することになる。この場合、多数の原子中に存在する電子は、入射粒子と標的電子との間の電場に対して遮蔽効果(Screening effect)を起こし、実際に感じる電場が実効的には小さくなってしまう。そして距離を置いた電子との相互作用によるエネルギー損失は小さくなる。密度効果を考慮すると、エネルギー損失の相対論的上昇が無限に続くことは実際に無い。
B 原子核のシェル補正Cの効果は荷電粒子の速度が速い時に現れる効果かもしくは遅い時に現れる効果か?またこのことを直感的にはどう説明すればよいか?(配点1)
原子核のシェル補正効果は入射粒子の速度が遅い時に顕著になる。直感的な説明は以下に述べる。入射粒子の速度が遅いと、入射粒子と標的電子の相互作用している時間が長くなる。この時間が長いと電子が原子核の周りを運動するのに十分な時間があり、電子は自由粒子とは振舞わず、原子核に束縛されてたものとして振舞う。このように原子核に束縛された電子と自由電子との違いがシェル補正因子Cとして補正される。
提出締め切り:5月16日(金)授業の時まで!
素・核・宇宙実験学Tレポート(解答)
3.
5月16、23、30日合計配点5(注:厳密ではなく、成績の参考資料程度に使う。)
(ア)
荷電粒子のエネルギー測定の応用の一つは、検出器中でのdE/dxを測定し、粒子の同定を行うことである。アルゴン(Ar)の詰まった比例計数管中をエネルギー300MeVの荷電π中間子(質量140MeV/c2))が通過する時と陽子(質量938MeV/c2)が通過する時のエネルギー損失をそれぞれ求めよ。Ar(原子番号18、質量数40)の密度は1.78g/lとする。エネルギー損失の計算にはBethe-Blochの式
を用いよ。(配点1)
この問題で、エネルギーの定義があいまいで申し訳ありませんでした。陽子のエネルギーを300MeV(質量エネルギーより小さい)としているように、運動エネルギー(全エネルギーから粒子の質量分を差し引いた分)を考えています。
また、非常に多くの人が上式のmc2にπ中間子、陽子の質量を代入していましたが、これは標的側の電子の質量です。
回答です。
I =16´Z0.9eVの関係式より、I =16´180.9=215.7eV。
g=E/m=(140+300)/140=3.14から導出して、bg=p/m=417/140=2.98、b=0.948。
また別の求め方としては運動エネルギーをE0、通常の全エネルギーをEとして、E0ºE-mとすると、
E2=(E0+m)2、
E2=E02+2mE0+m2
運動量はp2= E02+2mE0から、b、gを求めてもよい。荷電ð中間子のエネルギーが300MeVの場合、運動量は417MeV/c。
-dE/dx=2.61keV/cm
陽子のエネルギーが300MeVの場合、g=E/m=(938+300)/938=1.32からbg=p/m=808/938=0.861、b=0.652、運動量は808MeV/c。
-dE/dx=4.37keV/cm
陽子とπ中間子が同じエネルギーを持つ場合でも、その質量の違いにより単位長さあたりのエネルギー損失が異なり、それを測定することで陽子とπ中間子を識別することが可能です。
また、今回はエネルギーの定義が曖昧だったため、エネルギー=運動量と置き換えて回答した人も正解とします。
荷電p中間子の運動量が300MeVの場合、bg=p/m=300/140=2.143、b=0.906
-dE/dx=2.68keV/cm
陽子の運動量が300MeVの場合、bg=p/m=300/938=0.320、b=0.305
-dE/dx=15.7keV/cm
(イ)
シンチレータ検出器の応用の一つは、その速い時間応答を持って(速いシンチレータ検出器で時間分解能0.1n秒)荷電粒子の通過時間(TOF:Time of Flight)を測定をし、粒子の同定を行うことである。シンチレータ2枚を3mの間隔を離して置き、300MeVのエネルギーの陽電子(質量0.511MeV/c2)、荷電π中間子、陽子を通過させる。それぞれの粒子がシンチレータ間を通過するのに要する時間を計算せよ。この計算結果から、同一運動量の荷電粒子をTOF法によって、粒子同定が可能である事が理解できる。(配点1)
問題(ア)と同様です。
前問より、陽子、荷電パイ中間子の速度はそれぞれβ=0.652、0.948.
陽電子に関しては
エネルギーが300MeVの場合、運動量は300.5@300MeV/cなので
bg=p/m=300/0.511=587.1、b=0.9999985@1.0
各粒子が3mの間隔を通過する時間は、光速3´108m/s(=0.3m/ns)を考慮して(ns=ナノ秒)
陽子: 3¸(0.3´0.652) = 15.3 nsec
π中間子: 3¸(0.3´0.948) = 10.5 nsec
陽電子:3¸(0.3´1) = 10 nsec
よって、0.5nsecの精度以上で時間測定ができれば、陽子、パイ中間子、陽電子の識別が行える。実際のTOFシステムでは0.1nsec程度の時間分解能があるので、陽子、パイ中間子、陽電子の識別は十分可能である。
エネルギー=運動量と仮定した人は、陽子、荷電パイ中間子の速度はそれぞれβ=0.305、0.906.陽電子に関しては
bg=p/m=300/0.511=587.1、b=0.9999985@1.0
各粒子が3mの間隔を通過する時間は、光速3´108m/s(=0.3m/ns)を考慮して(ns=ナノ秒)
陽子: 3¸(0.3´0.305) = 32.8 nsec
π中間子: 3¸(0.3´0.906) = 11.04 nsec
陽電子:3¸(0.3´1) = 10 nsec
よって、0.1nsecの精度以上で時間測定ができれば、陽子、パイ中間子、陽電子の識別が行える。
(ウ)
シンチレータの光量。
NaI(Tl)シンチレータは1MeVの光子に対して約40,000個の光子を放出する。使用する光電子増倍管の量子効率を20%として、NaI(Tl)からの光の内10%を収集できると仮定した場合、何個の光電子が光電子増倍管で計測されるか?また、光電子数のゆらぎ(標準偏差σ)はガウス分布に従うと仮定し、NaI(Tl)の1MeVの光子に対するエネルギー分解能を見積もりなさい?平均N個を中心とするガウス分布の標準偏差はとなる。またエネルギー分解能は
(エネルギーの揺らぎつまり標準偏差)/(観測されたエネルギーの平均値)
として定義されます。(配点1)
何人かの人が勘違いしていましたが、光電子は光電子増倍管の光電陰極から出てくる電子です。よって光電子数は光電陰極から出てくる電子の個数で光電子増倍管の増幅率とは関係ありません。
40,000´0.2´0.1=800個の電子が観測される。
その時の光電子数の揺らぎは√800=28.3個である。
よって、予想されるエネルギー分解能は28.3÷800=0.035。
3.5%程度のエネルギー分解能が期待される。
(エ)
137Csからの662keVのガンマー線がコンプトン散乱により検出器で90度方向に散乱された場合、何keVのエネルギーが検出器で観測されるか求めよ?またこの662keVのγ線が1回のコンプトン散乱で検出器中に落とす最大エネルギーは幾らか計算しなさい?最大エネルギーを落とす場合、γ線はどの方向に散乱されているかも求めよ?(配点1)
なので散乱後のγ線のエネルギーは
検出器で観測されるのは散乱された電子の運動エネルギーなので
662−288.4=373.6keV。
ここで、電子は消滅しないので、電子の全エネルギー(静止質量を加算したもの)を使うと間違った答えとなる。また検出器で観測されるエネルギーを尋ねているのに、散乱された光子のエネルギーを答えた人が多かった。
検出器に最大エネルギーが落ちるのは、散乱γ線のエネルギーが最小の時である。上記の式よりθ=180°の時なので、上記の式に代入し
Eg’=184keV, Ee=662-184=478MeV。
この検出器中でコンプトン散乱で落とされる最大エネルギーがコンプトンエッジである。
(オ)
60Coは一度の崩壊で1.17MeVと1.33MeVの2本のγ線を放出します。1MBq(メガベクレル)の強度の60Co線源の鉛による遮蔽を考えます。鉛中の約1MeV(1.17MeVと1.33MeVも同様)の光子の減衰長は2cmである。1MBqの60Co線源から出てくるγ線の線量が1個/秒以下にするためには何cm厚の鉛で線源を囲う必要があるか計算しなさい。ここで60Coからは一度の崩壊でγ線が2個放出されることに注意すること。(配点1)
60Coは1回の崩壊で2個の放射線を放出するので、1MBqの線源で2000,000個の放射線を放出する。必要な鉛の厚さをxcmとすると
2000,000×exp(-x/2)=1
x=29.017cm
よって、毎秒1個のγ線しか許さないとすると線源を29cm厚の鉛で覆う必要がある。
提出締め切り:6月13日(金)授業の時まで!