update :: 2021.05.05 by Kiseki Nakamura
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AXEL検出器と原理

AXEL実験の0νββ発見に向けた最終的な検出器は高圧XeガスTPCです。 エネルギー分解能の目標値は0.5%(FWHM)であり、ガスを用いることで液体に比べてキャリアのばらつきを少なくし、読み出しになだれ増幅ではなくEL増幅を用いることで増幅ゆらぎを抑えます。 大質量に関しては、高圧ガスにすることで現実的なサイズの検出器(3mφ×3m)で1tonの質量を稼ぐことが可能となります。 さらに、TPCなので3次元トラッキング能力を有し、飛跡の小さいα事象やマルチサイトのガンマ事象といったバックグラウンド事象を判別、除去することができます。

開発状況(R&D)

大型試作機による性能評価(2018-)

圧力容器の体積は180Lの大型の試作検出器を開発し性能評価を行っています。 大型スケールにすることで二重ベータ崩壊のQ値付近のエネルギー、即ち2.5MeVでの性能評価を目指しています。 また、この試作機によって大量チャンネル化へのノウハウ獲得を行います。 最初のステップとして、511kevや662keVといった10Lの試作機では小さすぎて測定できなかったガンマ線での性能評価を行いました。 現在は、多チャンネル化と放電対策を両立する技術獲得を行っています。

物理探索に向けた検出器の建設(2021-)

2023年度にAXEL初の物理結果を目指した検出器を地下で完成させ、データ取得を開始する予定です。 これまでの小型試作機や大型試作機の知見を生かして進める重要な一歩であるとともに、今後の0νββ業界を担う検出器としての試金石ともいえます。 そのめに、実験装置の素材の放射線レベル等にも気を遣い、1000Lの検出器を設計しています。


大型化のための電場形成の研究(2016-)

検出器の大型化に伴い、電子をドリフトさせるために約100kVという非常に高い電圧を印加する必要があります。 電圧を検出器内部に導入する際のフィードスルー部分での放電を防ぐために、低い電圧値の交流電圧を導入し、検出器内部でコッククロフト・ウォルトン(CW)回路を用いて昇圧を行います。 そのためのCW回路の開発および、電場安定化のためのフィールドケージの開発を行っています。

大型化のためのDAQ回路開発 phase1(2015-2019)

将来トンスケールの検出器を製作するときに必要となるMPPCは数万個にのぼります。 これらの波形を全て読み出すために、Flash ADC (FADC)を使用した専用のエレクトロニクスを開発しています。 高いエネルギー分解能を保つことができるよう、最適な時定数のフィルタとFADCのサンプリングの研究を行い、個々のMPPCのバイアス電圧を調整できる高性能回路を低コストで製作します。 現在は大型試作機用に実際に回路を製作し、運用を行っています。この結果をもとに更に改良を重ねていきます。

大型化のためのDAQ回路開発 phase2(2021-)

回路開発phase1では1ボード当たり56個のMPPCの波形を読むことができます。 この開発をもとに、1000Lの実験用検出器に向けて、アナログ部をASIC化し、1ボードあたり64個のMPPCを読むことができる回路を開発しています。

64ch試作機によるデモンストレーション(2013-2018)

AXEL実験の原理検証のための最初の試作機であり、EL光の検出・エネルギー分解能の測定・粒子識別能力の評価、等を目的とした体積10Lの小型の試作機です。 京都大学の実験室で作成、運用しています。 Xe8atmでの動作実績があり、122keVや356keVのエネルギーのガンマ線を用いた性能評価を行いました。

長時間大光量に対するMPPCの性能評価(2014-2019)

AXEL実験では1つのMPPCに105コもの光子が5μ秒という長い時間幅に入射します。 エネルギー分解能を悪化させないためには、大光量が入射したときの非線形応答を把握して補正を行う必要があります。 検出器の大型化にむけて大量チャンネルのMPPCの非線形応答の測定を検出器内で行うためのセットアップおよび手法を開発しました。

VUV光に対するMPPCの性能評価(2014-2015)

キセノン中でのEL光やシンチレーション光の発光波長はUV領域であす。 そのため、通常のMPPCではなくVUVに感度のあるMPPCを使用します。 VUVに感度のあるMPPCの高圧キセノンガス中でのUV光(170nm)の検出効率を測定するため、小型の耐圧chamber内でUV-PMTとの比較によりα線のシンチレーション光を測定するセットアップを作し、試験を行いました。

バリウムイオン検出(2019-)

キセノンの二重ベータ崩壊の娘核であバリウムイオンを検出することは究極の信号同定手法です。 我々は生成したバリウムイオンを固体キセノン層に誘導し、レーザーを照射して脱励起光を観測することで単一バリウムイオンを検出しようと試みています。 現在、テストベンチにて固体キセノンにバリウムイオンがトラップできるか、バリウムイオンからの脱励起光が見えるかどうかを検証しようとしています。

イオン検出による飛跡再構成(2018-)

電子による飛跡の再構成においては電子の大きな拡散係数のために最初のトラックがぼやけたような飛跡が観測されます。 一方で電離の際に同時に生成する陽イオンは周りのキセノン原子と同程度の質量なので小さい拡散でドリフトすることが可能です。 陽イオンを検出し、飛跡を再構成することで二重ベータ崩壊信号における特徴的なblob構造を効率良く検出し、背景事象を削減することができます。 現在、小型のセットアップ内で極細ワイヤーを用いてイオン検出を試みています。

方向に感度を持つ暗黒物質探索(2015-)

柱状再結合という現象が低エネルギーの原子核反跳で起きると、高圧キセノンガスTPCを使って方向に感度を持つ暗黒物質探索が可能となります。 そのため、小型のセットアップで5MeVのα線を用いて再結合の角度依存性の測定を行い、ドリフト電場を調節すると柱状再結合が起きることを確認しました。 現在は、より低エネルギーかつ原子核反跳での柱状再結合の観測に向けて、中性子ビーム照射試験を予定しています。

ミグダル効果の観測(2020-)

軽い暗黒物質探索の解析にミグダル効果を仮定したものが非常に有効とされています。 ミグダル効果そのものの直接的な観測に向け、位置感度がありエネルギー分解能のよいAXEL実験のコンセプトを持つ検出器を作成し、中性子ビーム照射試験による観測を計画中です。 バックグラウンドが多いことが予想されていますので、最初のビーム試験ではバックグラウンドとその性質の確認と原子核反跳のクエンチングの測定を目指します。