ニュートリノ振動現象の発見により、ニュートリノに数meV~数百meVの質量があることが明らかとなりました。これは物質を構成する素粒子であるフェルミオンの中でニュートリノを除いて最も軽い電子に比べても7~9桁も小さな値です。このような桁違いの質量の違いを説明するものとしてシーソー機構という理論模型が提唱されています。これはニュートリノが他のフェルミオンとは異なり、粒子と反粒子とが同一粒子のスピン(自転)の向きが異なる状態にであるマヨラナ粒子である場合に可能な模型です。電子やクォークなどニュートリノ以外のフェルミオンは、真空中に凝縮したヒッグス場との相互作用を通して質量を獲得しています。このようなフェルミオンをディラック粒子と呼びます。ニュートリノがマヨラナ粒子であると、ディラック粒子のようなヒッグス場との相互作用はできませんが、別の機構でマヨラナ質量を持つことが可能になります。すると、このマヨラナ質量を介することでヒッグス場とも相互作用することが可能になります。この時、マヨラナ質量が重ければ重いほど、ヒッグス場との相互作用で得る質量は軽くなります。これがシーソー模型です。
シーソー模型が魅力的な理由がもう一つあります。私達の宇宙には、物質のみが残っており、反物質が残っていません。この宇宙における物質・反物質の非対称性の起源はまだ未解明です。宇宙初期に、上記の重いニュートリノが崩壊する際に粒子・反粒子の間の対称性である荷電鏡映変換(CP)対称性が破れたことにより宇宙における物質・反物質の量に差を生じさせることが可能だと考えられています。このように、素粒子の種類の起源、ニュートリノの極端に軽い質量の理由、宇宙における物質・反物質を理解するためにニュートリノがマヨラナ粒子であるのかどうかを確認することがとても重要です。
ニュートリノのマヨラナ性を確認する方法のうち、現実に進められているものは「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0νββ)」という事象の探索です。ある種の原子核ではベータ崩壊先の娘核の質量が十分に軽くないためベータ崩壊は禁止されるが、さらにそのベータ崩壊先の孫娘は十分に軽い場合があります。そのような場合には、ベータ崩壊を一度に2度起こす二重ベータ崩壊が稀におきます。この時、電子2個と反ニュートリノが2個放出されます。もし、ニュートリノがマヨラナ粒子の場合は、反ニュートリノ2個が実際に放出される前に対消滅してニュートリノを放出しない二重ベータ崩壊(0νββ)が可能となります。従って、0νββが見つかれば、ニュートリノがマヨラナ性を持つことが示されます。しかし、0νββは、ニュートリノの質量が小さいほど寿命が長くなるためさらにごく稀にしか起きません。例えば、136Xeで1026年に1回以下とわかっています。
0νββの探索は放出された電子のエネルギーの合計が作るピークを探すことで行われます。0νββはごくまれにしか起きないため大量の二重ベータ崩壊核が必要です。また環境からのガンマ線が生成する電子や通常の二重ベータ崩壊が背景事象になります。そのため、エネルギーを高い分解能で測定でき、電子が1個放出されているのか2個放出されているのか区別できる検出器が望まれます。
AXEL実験では、136Xeのガスを10気圧弱で封入し、キセノンガス検出器とすることにより、高エネルギー分解能・大質量・低背景事象の探索を行うことを目指しています。