京都高エネルギー研究室 ニュートリノグループ


粒子識別アルゴリズムへの時間情報の導入

どうやって粒子の種類を見分けるの?

スーパーカミオカンデは大きな水タンクです。水の屈折率のために、水中での光の速さは真空中の66%ぐらいの速さになります。そういえば、お風呂やプールに入ると足が短くなる事がありますが、これも水がもつ屈折率の仕業ですね。

真空では光より速いものはありませんが、水中では光の速さが遅くなるため、電荷をもった粒子が高いエネルギーを持っていると、水中に限って光より速く走り、チェレンコフ光と呼ばれる光の衝撃波を出します。スーパーカミオカンデでは水タンクの内壁に光センサをつけてこのチェレンコフ光を観測しています

チェレンコフ光は粒子の進行方向に対してコーン状に出るため、壁にはリングとなって投影されます。チェレンコフ光を出す粒子の種類によって進み方やスピードの落ち方が違うため、光のリングパターンや光がセンサに届く時間が粒子によって違ってきます。

今のスーパーカミオカンデでは投影されるリングパターンから、粒子の種類を識別しています。「どんな粒子が出てくるか」は「どの種類のニュートリノがやってくるか」で決まるため、スーパーカミオカンデで観察された粒子の種類から、もともとやってきたニュートリノの種類を知ることができます。

電子とミューオンを見分ける

スーパーカミオカンデでは特に、電子ニュートリノが水の中の陽子や中性子とぶつかって出てくる電子とミューオンニュートリノがやって来た場合に出てくるミューオンとを識別しています。ニュートリノにはタウニュートリノと呼ばれる種類もあり、それがやってくるとタウ粒子と呼ばれる粒子が出てきますが、タウ粒子はすぐに他の粒子に崩壊してしまい、チェレンコフ光を十分に出すほど水中を走ることができません。
電子もミューオンも電気を帯びています。そのため、水中を走る時には、周囲にある電子や原子核のもつ電気に影響を受けてしまいます 。電子はミューオンよりも200倍軽いため、より影響を受けやすく、まっすぐ走る事ができません。ぶつかって進路を曲げられ、曲げられた時には光子を放出します。そして、その光子がまたぶつかったり、電子の対をつくったり…。と短い距離の中で電磁シャワーと呼ばれる現象を起こし、すぐにエネルギーを失ってしまいます。
一方、ミューオンは電子よりも200倍も重いため、周囲にある電子など蹴散らして、まっすぐ走ることができます。そのため、ミューオンは長くチェレンコフ光を出し続けます。(ただし、時折、原子核とぶつかり、急にその進路が曲げられる事があります。)
その結果、電子では幅が狭く輪郭のはっきりしないリングができるのに対し、ミューオンではエネルギーが高いほど幅が広く輪郭のはっきりしたリングができあがります。

リングパターンだけでは見分けられない時

スーパーカミオカンデで見分けたいリングが1つしかなければ、リングパターンで見分ける事ができますが、複数のリングが被ってしまうようなケースでは識別に失敗する事があります。


このような場合に、正しく識別できるようにするために、電子よりもミューオンが長く走り続けることとを利用して、光センサへのチェレンコフ光の到達時間を見る方法を、新たに加える試みを行なっています。