京都大学T2Kグループの活動

京都グループでは、MUMON、INGRIDという検出器を用いて、T2K実験のニュートリノビームの安定性や性質のチェック、より多くのニュートリノ事象を得るための加速器の増強に向けた研究、統計誤差削減のための既存のニュートリノ検出器のアップグレードや新たなニュートリノ検出器の開発、さらにはニュートリノ振動やニュートリノ反応断面積測定のデータ解析など、多岐にわたって活躍しています。


INGRID

INGRID検出器

INGRIDはニュートリノビームの方向、強度を測定するためのニュートリノ検出器です。十字に配置された14台の同一検出器から構成され、1台の検出器は鉄とシンチレータのサンドイッチ構造になっています。鉄中でのニュートリノ反応により生成された荷電粒子をシンチレータで検出することにより、ニュートリノをとらえます。京都大学では、INGRIDの設計、開発、建設から、現在の運用まで担当し、ビーム運転中は即座に取得したデータを解析し、ニュートリノビームの安定性を確認しています。


MUMON

MUMON検出器

ミューオンモニター(MUMON)では、ニュートリノとともに生成されるミューオンの強度およびプロファイル(空間分布)を測定することで、ニュートリノビームの強度および方向を間接的にモニターしています。ニュートリノビームの状態をリアルタイムに監視できる唯一の検出器であるため、T2K実験の全期間において安定に動作することが求められます。そこで、固体検出器(シリコンPINフォトダイオード)とガス検出器(並行平板イオンチェンバー)の2つの独立したシステムを採用し、冗長性を持った検出器となっています。現在は将来を見据えて電子増倍管を用いた新たなミューオンの開発も行っています。


16電極モニター

J-PARC加速器

T2K実験において、統計誤差を減らすためには、ビームの強度増強が重要です。J-PARCからの陽子ビーム強度を上げるべく、京都大学では加速器の分野での研究も行っています。ビームの位置を測定するモニタと、そのデータをもとにビームの振動を補正するフィードバックシステムを開発し、インストールしました。そしてこのフィードバックシステムによりビームロスを抑え、ビーム強度の向上に成功しました。現在は16電極モニターと呼ばれる新たなビームモニターの開発、運用、解析を行っており、これによりさらなるビームロスの抑制、ビーム強度の向上を目指しています。


WAGASCI-BabyMIND

WAGASCI-BabyMIND検出器

現在のT2K実験におけるニュートリノ振動の測定においてはニュートリノ反応の不定性に起因する系統誤差が支配的になっています。この不定性を抑制するためにはニュートリノ反応断面積の精密測定が必要になります。WAGASCIはスーパーカミオカンデと同じ水を標的としたニュートリノ検出器でINGRIDと同じくニュートリノ反応により生成された荷電粒子をシンチレータで検出します。特殊なシンチレータの構造によりINGRIDなどと比べて大角度に散乱された荷電粒子の検出効率が優れています。BabyMINDはCERNで開発された検出器で、INGRIDと同じような鉄とシンチレータのサンドイッチ構造になています。ただ、この検出器には磁場が印加されているため荷電粒子の曲がり具合から電荷や運動量を測定することができます。この2つの検出器を組み合わせることにより、ニュートリノ反応断面積の精密測定を目指しています。


ND280アップグレード

ND280検出器のアップグレード

INGRIDがT2K実験のビーム軸上に設置されているのに対し、スーパーカミオカンデ方向にはND280と呼ばれる別のニュートリノ検出器が設置されています。ND280は主に多数の棒状のシンチレータとタイムプロジェクションチェンバー(TPC)から構成され、スーパーカミオカンデ方向に向かう振動前のニュートリノの種類やエネルギーを精密に測定します。しかし、現在のND280には大角度や低運動量の粒子の検出効率が低い、電子ニュートリノとガンマ線の識別効率が低いといった課題が残されています。そこでND280の大幅なアップグレードが計画されています。その中で、棒状のシンチレータの代わりに1cm角のキューブ状のシンチレータを200万個ならべた新型のニュートリノ検出器の開発を行っています。


NINJA

NINJA実験

ニュートリノ反応断面積の測定において大きな課題となっているのが低運動量の粒子(主に陽子)の検出です。多くのニュートリノ反応においては陽子が散乱されますが、これらの多くは運動量が小さく、飛程が短いため検出が困難です。この陽子を高効率で検出することができればニュートリノ反応に関する新たな知見が得られます。NINJA実験は原子核乾板を用いて、低運動量の陽子も含めたあらゆる荷電粒子を検出できるニュートリノ反応測定を目指しています。原子核乾板は写真フィルムの一種で荷電粒子が通った後、現像するとその飛跡を確認することができます。原子核乾板はミクロンレベルの非常に高い位置分解能を持っているもの時間情報は全く持っていないのが難点です。そこで京都大学では原子核乾板をシンチレータ検出器と組み合わせることで高い位置分解能と時間情報の両方が得られる検出器を開発しています。


Super-K

スーパーカミオカンデの解析

ニュートリノ振動測定の最終段階として、後置検出器であるスーパーカミオカンデのデータを用いた解析が必要になります。INGRIDやND280の測定結果をもとに予測したスーパーカミオカンデにおけるニュートリノ事象を実際にスーパーカミオカンデで観測されたニュートリノ事象と比較することでニュートリノ振動のパラメータを測定することができます。このようなニュートリノ振動の測定に加えてT2K実験のニュートリノビームとスーパーカミオカンデを用いたニュートリノ反応断面積の測定なども行われています。